書評


  Back

The Fountainhead (邦訳 「水源」) Ayn Rand

(コメント)
バンクーバーを去ったときに、同僚(上司)の一人が教えてくれたのがこの小説だった。彼は若い頃喘息をこじらせて喉を酷く痛めたため、モゴモゴとくぐもるような声を出しながら、日本人の私にはほとんど理解し難いような英語を話した。バハマ出身の彼は誰もが呆れるほど仕事に対する情熱を溢れさせ、努力家で人情に厚い男だった。私が既に会社を辞めることを決め、引越しの荷物をまとめていた頃、彼は私を誘ってスキーに連れて行ってくれたのだが、道中の車内でお互いの人生について語り合うことができた。そのときに彼がとても強い影響を受けた本として紹介してくれた訳だ。帰国後はバタバタしていてそんなことなど忘れかけていたのだが、彼はわざわざ自分の持っていたペーパーバックを郵送してくれたのだった。だいぶ長いしシンドイな、と思ったが読まない訳にもいかなかった。ヨーロッパをバックパックを背負って旅しているあいだに読みはじめたが、いざ読んでみるとその豊かな内容に驚き、そして感動した。何かはっきりとした方向が与えられた気がした。個を高らかに謳うということ。自分のなかでネガティブな印象ばかり強くなっていたアメリカという文化に対する見方は修正を迫られた。確かにアフガン・イラク戦争などを眺めていると、今の彼らのどうしようもない姿ばかりが見えてくる。でも彼らが正しいものを知り、自信と誇りを持っていた時が確かにあったのだ。世界の明るい未来を信じるためにも、多くのアメリカ人がこの小説を聖書に次いで最も影響を受けた書物だ、と言う心を持ち続けてくれることを祈るばかりだ。

参考リンク
  日本エインランド研究会(藤森かよこさんのページ)
    → 詳しい紹介などが載っています。