書評


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2003/12/14 「僕はどうやってバカになったか」 マルタン・パージュ
 11/26読了。軽い読み物として。

(あらすじ)
 人が幸せになれないのは考えるからだ。厳密に論理的に考えた結果、バカになるしかないという結論に至りそれを実践する主人公(戯画化された極度にナイーブで頭の切れる青年)の物語。まずはアル中になることを試み、それに失敗すると自殺を試み、これまた上手く行かずに脳の一部切除を願い、最終的には 「ウーロザック」 という抗鬱剤&麻薬のようなものを処方してもらう。思考を緩めてぼんやりさせるその薬のおかげで、彼はようやく俗物へと変身を遂げる。そうして友人の経営する証券取引会社に勤めることになる。ひょんなことから大金を儲けて豪勢で気楽な暮らしをするものの、しだいにそのバカらしさ、虚しさを感じ取りはじめる。ある日パートナー斡旋所で、単なる欲望の対象を明確にデータベース化した紹介システムを運営する、合理主義的(プラグマティック?)な中年女性が、旦那が若い娘の方へ走ったことを冷静に分析してうえでそれは仕方がないのだ、といって悲嘆にくれるのを見て、その世界を去ることを決める。無事に古き良き仲間のもとにもどり、ハッピーエンドとなる。

(コメント)
 最終的な結論を見ると、「バカの壁」 の小説版というような感じがする。ものごとを徹底的に考えてしまうことは一種の病気である。それは結果として人をとんでもなく孤独なところへ追い込んでいくことがある。バカになりたいという願望は僕の中にもあるが、それは恐らく、共同性への憧れなのだと思う。だけどバカになっても今更幸せはやってこないよ、っていうのがこの小説の筋。本当かなぁ。とりあえず現代の相の中では、バカになるほうが元気にはやっていけますよ。きっと。あなたが神を信じないなら。
 なお、この小説自体はその独特のテンポ、コミカルさで読みやすく、面白い。