8月中旬読了。
最近、家の近所にBOOK OFF （古本屋）ができたので、時折寄っては古い文庫本などを拾ってくる。50円や100円で買える本は
「拾ってくる」 というのが実際の感覚だ。どうせある程度古いものしか読まない僕のような人間にとっては、それなりの情報ソースになる。改めてなんかすごい時代になっちゃてるんだな、と感じる。
この本が書かれたのは1985年。バブル全盛の頃だ。著者は様々なデータを分析しながら、その後の経済の行方を予測している。高度成長期の頃までは、それほど多くない選択肢の中から、皆が
「必要」 に迫られて同じようなものを購入する傾向が強かったが、社会が豊かになるにつれてその傾向は弱まり、消費は多様化していく。（生産の側から見れば少品種大量生産から多品種少量生産へのシフト。）
著者は消費形態の変遷をマズローの欲求発展段階理論などを援用して解釈していく。欲求発展段階理論とは、人間の欲求は次のような発展段階を持つというものだ。
� ＼戸�的・生物的欲求（性欲、食欲）
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�� 社会的欲求（帰属への欲求、同調の欲求）
�ぁー�我の欲求（優越欲）
�ァー�己実現の欲求（創造の欲求、自己啓発の欲求）
消費の形態を見る限り、昭和30年代までは�´◆�高度成長期には��、1970年代頃から�きイ�強くなってきている。では皆が一様にそうした欲望の発展に与っているのだろうか？この問題を捉えていくためには、個人のミクロな視野に留まるのではなく、マクロな問題、社会の構造へと目を移さねばならない。
好景気に沸く社会のなかで著者が見ていたのは、消費の多様化は現実には 「階層化」
であり、資産の大小により市場が二分化 （高級品市場と大衆品市場） されていくという流れである。それまでだって豊かな者・貧しい者の差はあったが、今後はこの差がより明白になっていくということである。貧乏人（あるいは圧倒的多数の普通の人）はスーパーで化学肥料・農薬漬けの食品を買い、ユニクロで中国産の衣類を買う一方で、国内産の安心・安全な有機産品やブランドものへのニーズもどんどん伸びていく。こうした流れは感覚的には実感されることだが、そうした流れを資産と消費傾向の相関などを追いつつ実証していく。毎日カップラーメンを食いながらブランドものを着るというような、一点豪華主義的な方向へのシフトもあるのではないか、という考え方もある訳だが、著者は高級品の消費が所得と密着したものであることを冷静に示していくのである。そうして階層はますます固定化されていく傾向にある、と。
こうした現象は資本主義の発展の必然的な帰結なのではないかと思うし、日本に留まらず世界的に起こっている。階層化の問題は、都市化（自然や共同体からの疎外）という現象
とも連携しながら、もちろん経済現象には留まらず、アカデミックな世界、あるいは文化そのものに及んでいる。当然のことながら、権力構造そのものが、より明白な形でそうした階層を維持する流れも強まっている。（郵貯自由化なんかもそういう風に捉えることができるだろう。） 世界の多くの国と比べ、日本では例えば会社でもトップと平の給料格差も小さく保たれてきたし、共同体的なものを維持するために
「階級」 の明白な露見は常に防いできた観があるが、最近ではそうした傾向も最小限に留まるようになり、「勝ち組」「負け組」という言葉がおおっぴらに語られるような時代になってきた。現代にあっては、頭から
「階級なんてあるに決まっている」 というスタンスに立っている方が、先の見通しがよくなるのではないだろうか。で、どうする？あなたはどこに立つ？やっぱり勝たなければならない？それとも共同体なんていう古いものにしがみ付く？
こうした（経済的な）次元でものを見る限り、答えは明白なのではないかと思う。
「勝ち組」 に残っていくしかない。だが、多くの人はその流れのなかで矛盾を感じているのも事実だろう。それは一体何なのだろう？僕はそれはどの視点から構造を見るかということだと思う。自分が属してきた文化、歴史、そうしたものにどれだけ自覚的であるか、あるいは自分の人生の時間スパンを越えて、先々この人類という種はどうなっていくのかを予測しているかどうか。「勝ち組」
に残るしかない、という帰結しか出せない人は孤独な人であり、深い絶望を心の奥底にしまいこんでしまった人なのではないだろうか？
そういえば、この本のなかに印象に残ったデータ（1982年の段階）があった。それは農業者と非農業者の間の所得比較である。農家の所得は、全国の非農家の平均と比べれば20〜30％増となっている。この傾向は60年代後半頃からとくに顕著になっており、年を経るに従って強まっている。農家と言っても90％以上は兼業農家の時代である。通常のサラリーマン収入の他に、わずかながらでも農業収入があればこのくらいになるのかもしれない。それから土地を持っている者とそうでない者という面も大きいだろう。売却益などもこの所得のなかには含まれているのだから。単に所得という年次ごとの収入だけでなく、資産という観点から考えると格差はいっそう甚だしいものになるだろう。同じ収入があっても、そこから家のローンがあったり等、出費も含めて考えると貯蓄効率には大きな違いが出てくる。そういう意味では、いわゆる農家って言うと、したたかに勝ち残ってきている側の人が多いんだということが分かってくる。国の農業保護政策や農協のような強い利益団体のお陰でずいぶん守られているのも間違いないし。都市に出てサラリーマンをしている人間なんて、見方を変えれば所詮は田舎であぶれた次男、三男の群れとその子孫たちだもんなぁ。
これから食うに食えない農業を始めようとしている僕にとっては、最初何だか意外な感じのするデータではあったのだが、考えてみれば当然ということなのかもしれない。 |