書評


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2005/ 9/ 22 「石油を支配する者」 瀬木 耿太郎
 8月中旬読了。

 昨今、原油の値段が上がってきている。いよいよエネルギー価格が本格的に上昇を始めるのだろうか?エネルギー問題に関しては、学生の頃からずっと関心を払ってきたし、燃料電池の開発の仕事をしながらも考え続けてきたテーマである。新しいエネルギー源の開発が進んでいない現状において、時期の早い、遅いはあれ、石油価格の上昇、そしてそれにともなう経済的な打撃がやってくるであろうことは、簡単に予想される。その時私たちにできることは一体何か、というのが私の問題意識の一つのスタート地点と言える。さて、果たして今回の価格上昇は化石燃料の枯渇・逼迫化と直接的に関係したものなのだろうか?そんな思いを持って眺めていた私にとって、Book Off で見つけたこの本は、ちょっとした情報源になってくれた。
 本書は19世紀の米国で最初に本格的な石油の生産がはじまった段階から、この本の書かれた1980年代まで、石油産業の辿ってきた経緯を概観させてくれる。石油価格を決めているのは誰か?石油の価格を思いのままに動かしていたのは古くはいわゆるオイル「メジャー」であったが、オイルショック以降、OPECを中心とした産油国に主導権が移っていく。しかし、北海油田の開発などに伴う原油先物市場の発展により、またそれにつられて活発化した米国の市場の発達により、価格は投機関係者の影響を強く受けるようになっていった。土地しかり、証券しかり、現代はそうした膨大に膨れ上がった金融業界の支配を強く受けるようになる。それは資本主義の進展として、ほとんど必然の帰結なのかもしれない。かといって、それはまた、常に隣の顔色を伺いながら、どう動けば儲かるかということばかりを考える荒んだ時代とも言えるだろう。実態経済はその本質上存在し続けるにも関わらず、それを支配する者はそこから激しく乖離していく。富んだものと貧しいものとの差はますます拡大していくばかり。空飛ぶ者と、地べたを這う者。それは先般のニューオリンズのハリケーンによる被害においても、ぞっとするほどくっきりとあらわれていたように思う。豊かな者は二重・三重の保険に守られて失うものはないに等しいのに対し、貧しいものは全てを失ったうえ、生きるために暴徒と化す。悲しいかな。
 本筋のエネルギーについてだが、有限な資源が尽きることに関して、本質的な解決策は簡単に示すことなどできない。それは本書の著者も危惧しているところではある。ただし、それを巡って人々がどのような反応を示しうるか、それをある程度予測させてくれるような具体的な情報をこの本は提供してくれたように思う。
 結局、少ないエネルギーで生活できるように慣れておくのが一番強いんじゃない、というのが、現在の私のスタンスである。少ないエネルギーで暮らすのは怠け者には難しい。頑張らなくっちゃ。