書評


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2005/ 2/ 7 "Atlas Shrugged" 邦訳 「肩をすくめるアトラス」 Ayn Rand
 2005/1/27読了。

 原著(英語版)で読んでいたこともあるが、とにかく長かった。。。仕事を辞めてかなり自由な時間があったのだけど、それでも結局読み終えるのに丸2ヶ月はかかってしまった。最後の方はクドイ部分も多くてちょっとバテ気味だったし。なにしろ強烈なアジテーションが繰り返されるので、気持ちが高揚されられるところがある反面、ダメージを食らったり、嫌悪感を覚える部分もある。
 ともあれ、色々な意味で刺激になる本だったので、受け止めたい部分、吐き出したい部分を自分の言葉でメモしておきたいと思う。

(背景)
 1957年に書かれた米国の長編小説。著者はロシア移民アイン・ランド(Ayn Rand:1905〜1982)で、彼女は"Collectivism" (集産主義/人の集合体・組織、国家や宗教や共同体に価値を置く思想〜人の「和」を大切にする志向性) を批判し、極端な個人主義あるいは"Objectivism" (客観主義/世界にはモノだけが存在し、全ては理性によって把握可能であるとする思想) を唱えた哲学者(?)として知られる。資本主義の倫理的、精神的支柱となる力強い(マッチョな?)言葉を提供したこともあって、米国では大変人気のある作家である。受け入れる者も、批判する者もやや感情的になる傾向があるようで、その意味ではある種シャーマン的な要素を持っていた人かもしれない。"Fountainhead (水源)"の著者でもある。

(あらすじ)
 1950年代の米国が舞台。鉄道会社の女性経営者(副社長)ダグニー・タガート(Dagny Taggart)を主役(ヒロイン)として物語が展開される。彼女は裸一貫からタガート社を立ち上げた創業者ナサニエル・タガートの孫であり、物心つくころから祖父に憧れて、タガート社を支え発展させていくことに全てを賭けてきた。大学では機械工学を学びつつ、夜はタガート社の信号切り替え所で夜勤を続けながら、「叩き上げ」のキャリアを辿った後に実質上の業務執行責任者のポジションに就く。彼女は自分の仕事に誇りを持ち、限りなく愛している。問題が発生すればいつだって真っ先に自ら責任を引き受け、その場しのぎではない抜本的な対策を打ち出そうとする。人を評価するときは常にその仕事の質によって評価し、誰がどこでどんな仕事をしているかをきちんと把握していて、社員からの信望は厚い。いつだって冷静沈着、周りの人間からは「鉄の女」として受け止められる。そんなスーパーウーマンだ。
 それに対して彼女の兄、タガート社の社長ジェームス(James)は彼女と対照的な「ボンボン」として育ち、お坊ちゃん大学に通って有力者の人脈を広げ、政治的な駆け引きの技術にその才覚を現す。彼は心の中ではダグニーを妬み、その冷静さを憎みつつも、彼女の有能さに依存し、鉄道の運営や社内の「細かなこと」は全て任せきっている。彼の仕事は国や産業界の重要人物と仲良くやっていくことであり、助成金や政策的な支援を引き出してくることだ。彼は誰に対しても「公平」であることを自負し、常に貧しきものや弱きものの味方であろうとしている。
 物語は、ジェームスがメキシコの発展に寄与するためと称して、メキシコの銅山開発に投資をし、その輸送を独占するための新規路線敷設を押し進めているところから始まる。ダグニーはその杜撰な計画に異議を唱えるものの、「貧しい人々が発展していくのを援助するためなんだ」という、ジェームスのヒステリックな叫びとは会話の噛み合う余地がない。結局ゴリ押しで計画が進められ、もともと余裕のない資金繰りで運営してきたタガート社は他の路線の整備の質などを落とさざるを得ない状態に陥っていく。ダグニーは独断で立ち回ってなんとか必要最低限のものを確保する算段をする。全てのアクションについては詳細な報告書にまとめてジェームスに手渡すが、彼はそんなものはチェックしないから、メキシコ線に投入された設備の大部分が他の路線に回っていることもずっと後になって知って大騒ぎするのである。
 時を同じくしてコロラドでは新たな掘削技術を開発したエリス・ワイアット (Ellis Wyatt)が油田を掘り当て、空前のブームが起ころうとしていた。多くの産業が移転をはじめ、金も有能な人材もコロラドに集まりつつあった。それに応えて速やかに新たな鉄道路線を設けたダン・コンウェイ(Dan Conway)率いるベンチャーのフェニックス社は、東部への大量の輸送需要を受け、一気に台頭していた。タガート社はメキシコ路線の重荷もあってコロラド線の拡充を図れず、矢継ぎ早に増便を重ねるフェニックス社に既設路線の輸送シェアさえも奪われつつあったのである。ダグニーはタガート社としても何とかそこに食い込んで行きたいと考えていたが、同時にワイアットやコンウェイの手腕の鮮やかさに心躍らせてもいた。
 結局メキシコの銅山プロジェクトは破綻した。(後にそれが仕組まれた破綻であったことが分かるのだが。) 多額の投資をしていたジェームスはその穴埋めをする必要に迫られる。責任を受け止めて辞任するなどもっての他。彼が編み出した起死回生の策は、コロラドの利権を奪取すること。それは新たに路線を敷設することによってではない。それだけの体力はタガート社にはないのだから。それゆえ取られた手は政治的なものであった。彼はワシントンの重要人物にも働きかけ、鉄道業界全体で「共食い防止協定」なるものを結ぶように画策したのである。いわばはみ出し者を締め出す「談合」だ。コンウェイは結局そうした情勢にうんざりして鉄道から手を引くことを決める。
 コロラドの成長はフェニックス社の鉄道によって支えられていた部分が大きい。このままではコロラドは駄目になってしまう。ダグニーはそんな流れに反発して自らベンチャーを立ち上げ、新たな路線の建設をはじめる。耐久性と強度を高めた革新的な金属材料を開発したハンク・リアデン(Hank Rearden)という製鉄王と手を結んで。だが、ジェームスや彼の各界の友人たちのそんなやり口は次第にエスカレートしていき、あらゆる方面で似たような事態が連鎖的に進んでいく。やがてヤル気のある有能な人間は一人、二人と表舞台から去り、世界から次第に火が消えていく。。。

。。。
 
つづく